調査:フィリピン 01

マニラ

2015.01.08 - 01.11

SEA プロジェクト 初調査として、キュレトリアル・チームはマニラを訪問しました。300年のスペイン統治、50年のアメリカ統治を経て形成された文化のなかで、アーティストはどのような表現をしてきたのかを探るために、さまざまな年代のアーティスト、キュレーターにインタビューを行い、美術館、ギャラリー、アート・スペース等、多くの場所を視察しました。2015年、51年ぶりにヴェネチア・ビエンナーレにナショナル・パビリオンとして参加をしたフィリピンの今後の現代美術界はどう変容していくのでしょうか。

  • 熊倉 晴子
  • 南 雄介
  • 片岡 真実
  • 米田 尚輝

アートブックス.ph

2015.01.08

熊倉 晴子

90年代からビック・スカイ・マインド(Big Sky Mind Artists' Projects Foundation)というアーティストランスペースを主催していたアーティストのリンゴ・ブノアン(Ringo Bunoan、1974-)が2014年4月にオープンした書店。現代美術に関する書籍に留まらず、様々な種類の本をオンラインでも販売しています。現在のフィリピンにおける、美術雑誌やカタログの出版が活発でなく批評が存在しなくなってしまったという現状を危惧し、主にフィリピンの出版を活性化すること、それを国内の読者だけでなく国際的に広めてゆくことを目的として始まりました。母体となるのはアートブックス.ph (artbooks.ph)に併設されているパイオニア・ストゥディオ(Pioneer Studio)という写真スタジオで、展覧会などにも対応できるクオリティのプリンターや、スタジオスペースのレンタルも行っています。訪れた際は展示のためのスペースをリノベーション中でした。今後はアーティストやライター、デザイナーなど、多様なジャンルのコラボレーションで行う出版プログラムも開始する予定だそうです。

フィナーレ・アート・ファイル

2015.01.08

熊倉 晴子

1983年にマカティ市内にオープンしたフィリピンでは最も初期から活動しているギャラリーのひとつ。コンセプチュアルアーティストであり、フィリピン大学(University of the Philippines)で多くのアーティストを指導したロベルト・チャベット(Roberto Chabet、1937-2013)や、彼の生徒たちの展覧会を開催するなど、実験的な作品や若いアーティストたちに展示の機会を多く提供してきました。1990年代にはフィナーレ・アート・ファイル(Finale Art File)を含めた15~20のギャラリーが商業モールに移転し、アートウォークとして賑わいを見せましたが、2000年代後半には賃料の上昇から撤退するギャラリーが相次ぎ、フィナーレ・アート・ファイルも2008年に450という広さを備えたスペースに移転しました。現在では、3つに分かれた展示スペースにて国内外で活躍するフィリピン人アーティストの企画展を行っています。

フィリピン大学付属
ヴァルガス美術館

2015.01.09

片岡 真実

ヴァルガス美術館(Jorge B. Vargas Museum and Filipiniana Research Center, University of the Philippines)は、フィリピンの近代美術史を1880年代から1960年代まで網羅したコレクションを展示。さらには、図書室、フィリピン美術に関するアーカイヴも整備されています。同大学教授のパトリック・フローレス(Patrick Flores)のキュレーションによるコレクション展示は、通史的な視点を持ちながら、緩やかにテーマ分けされ、フィリピンの国民的画家フェルナンド・アモルソロ(Fernando Amorsolo、1892-1972)から続く絵画の系譜に、現代アートの作家や各時代の参照資料としての写真、映像、印刷物などが編み込まれています。訪問した際の企画展は、国際交流基金が主催した若手キュレーターのためのワークショップ「RUN & LEARN」の成果展。コン・カブレラ(Con Cabrera)、リッキー・フランシスコ(Ricky Francisco)、マーヴ・エスピナ(Merv Espina)、平野真弓の4名による小企画を通して、マニラの若手作家の問題意識を垣間見ることができました。日本からは丹波良徳がレジデンスをしながらマニラ市内のゴミ処理問題を考える参加型のプロジェクトを実施。また美術館の地下空間を使ったワーキング・アーティスト・グループ(Working Artist Group)のプロジェクトも、美術館の機能に切り込んだ秀逸なものでした。

グリーン・パパイヤ

2015.01.09

片岡 真実

マニラでは1970年代に最初のオルタナティヴ・スペース創設の波があり、第二の波として1990年代以降、オルタナティヴ・スペースやアーティストランスペースが重要な役割を果たしてきましたが、その多くは3 - 5年の短命で終わっています。そのなかでは、2000年に創設された「グリーン・パパイヤ(Green Papaya Art Project)」は最も長く続いているスペースのひとつ。テレビ局に勤務していたという共同創始者のノルベルト・ロルダン(Norberto Roldan、1953-)は、次のように言います。「2000年当時は、現在のようなアート・マーケットは無く、作品を見せるための場所や方法を自分たちで模索するのは、アクティビストの活動にも似てとても自然なことだった。2008年頃からマーケットが見えるようになったが、グリーン・パパイヤの活動は変わっていない」。サウンドアート、ダンス、スポークンワード、パフォーマンス、トークなど多様な活動を行っています。マーケットの急成長によってエコバランスが崩れることは憂慮していましたが、現在も様々な議論のできる居心地の良さそうな場所でした。

1335マビニ

2015.01.10

米田 尚輝

1335マビニ(1335MABINI)はマニラのマビニ通り1335番地に位置するギャラリー兼オルタナティヴ・スペースで、オーストリアのGalerie Zimmermann Kratochwillと提携しています。作品の展示だけでなく、パフォーマンス、ワークショップ、トークイベントも積極的に開催し、2013年からはレジデンスプログラムも提供しています。ギャラリーに所属するキリ・ダレナ(Kiri Dalena、1975-)は、作家であると同時にアクティヴィストとしても自身を規定し、ドキュメンタリー映像と彫刻を組み合わせた手法で、事件や事故に巻き込まれた人々の人権問題にアプローチしています。同じく所属作家のポクロン・アナディン(Poklong Anading、1975-)は、ドローイング、写真、ヴィデオ等の複数のメディアを駆使しつつ、作品への観者の参加可能性を追求しています。丹羽良徳や毛利悠子ら日本人作家もここで展示を行っており、フィリピン国内でもっとも国際的な展望を持ったギャラリーのひとつだと言えるでしょう。

98Bコラボレトリー

2015.01.11

米田 尚輝

98Bコラボレトリー(98B COLLABoratory )はマニラにあるアーティストランスペースです。2012年にアーティストのマーク・サルヴァトゥス(Mark Salvatus、1980-)とキュレーターの平野真弓が中心となって、マニラの多様化してきたアートシーンに対応するために設立されました。 スペースの運営を始めたきっかけは、フィリピンのアートシーンが排他的であると感じていたため、若いアーティストが集う実験室のような場所にしたかったからだ、と設立メンバーのひとりアーティスト/キュレーターのマリカ・コンスタンティーノ(Marika Constantino)は言います。スペースは多目的な用途に解放されており、スタジオやオフィスとしてだけでなく、キッチンやショップ、あるいは誰でも利用できるライブラリーも兼ね備えています。レジデンスプログラムも準備されており、ここで開催されるトークイベントや展示を通じて、アートに関わる人々と一般の人々とのネットワークを築くプラットフォームとなることを目指しているようです。

ホセ・テンス・ルイス(1956-)

2015.01.11

片岡 真実

パトリック・フローレスが企画した2015年の「ヴェネチア・ビエンナーレ フィリピン館」の展示に参加したアーティスト。インタビューでは、1965年以降のマルコス政権、イメルダ・マルコスによる1970年代の文化政策、国際化政策、1986年のエドゥサ革命など戦後大きく政治や社会が変動したフィリピンの歴史を、詳しく話してくれました。その文脈のなかでの現代アートの発展は、欧米のアートとフィリピンの土着的・大衆的アートの拮抗、社会主義リアリズムと抽象絵画、非物質的な作品の並走など、多様な様相を見せてきました。民主化を求めるなかで、アクティヴィズムとアートの表現は親和性が高く、その傾向は現代の若いアーティストにも見られます。「私は日常のリアリティに関心がある。新聞の記事がインスピレーションとなっている」という彼の言葉は、自身の文脈に根ざした社会への意識が感じられるものでした。

フィリピン文化センター(CCP)

2015.01.11

米田 尚輝

フィリピン文化センター(CCP、The Cultural Center of the Philippines)はフェルディナンド・マルコス政権下で、芸術文化の発展を促すために1969年に設立された多目的文化センターです。フィリピン国内外の音楽、ダンス、劇場、ヴィジュアルアート、文学、映画、デザインなどのイベントを開催しています。1970 - 80年代にかけてはとりわけ劇場の分野に重点をおいて開発され、CCPを基盤に活動する最初のカンパニーとなったのは1973年のフィリピン・フィルハーモニー管弦楽団で、現在ではこうした音楽や舞台芸術のカンパニーの数は9つにのぼります。また、CCPは雑誌や書籍そしてオーディオヴィジュアルなども発行しており、1994年には10巻本の『CCP Encyclopedia of Philippine Art』を刊行しています。近年のヴィジュアルアートの分野において特筆すべきは、1970年から3年おきに開催されている「Thirteen Artists Award」でしょう。これは、13人のフィリピン国内の作家がノミネートされCCPで展示を行うもので、フィリピンの現代美術家たちにとって登竜門のような存在となりつつあります。

サンガワ (1994-1998)

南 雄介

サンガワ(Sanggawa)は、1988年頃よりグループ・サリンプーサ(Salingpusa)として活動を行ってきたフィリピン大学の学生たちから発展的に生まれた、マニラを拠点とするアーティストコレクティヴです。エルマー・ボルロンガン(Elmer Borlongan)、カレン・フローレス(Karen Flores)、マーク・フスティニアーニ(Mark Justiniani)、ホイ・マリャーリ(Joy Mallari)、フェデリーコ・シエベルト(Federico Slevert)の5人のアーティストによって1994年に結成され、政治的、風刺的なテーマと、フィリピン固有の神話や伝説を融合させ、ダイナミックな構図と細密な描写を特徴とする、具象的な大画面の絵画や壁画を共同で製作しました。サンガワとしての活動は1998年までで、けっして長い期間ではありませんでしたが、国内外で活躍し、日本でも1997年に東京に滞在して東京都現代美術館で公開製作を行っています。サンガワとしての活動を停止した後も、個々のメンバーはそれぞれアーティストとしての活動を継続し、高い評価を得ています。

ロベルト・チャベット
(1937-2013)

片岡 真実

フィリピンを代表するコンセプチュアルアーティスト。1942年生まれのコンセプチュアルアーティスト、デヴィット・メダラ(David Medalla、1942-)が1960年代に渡英したのに対し、1967年、ロベルト・チャベットは30歳でフィリピン文化センターのギャラリー・ディレクターに任命された後、欧米の美術状況を視察した後は、ほとんど国内で活動しました。CCPでは多くの実験的な展覧会を企画し、アーティスト、キュレーターだけでなく、1971年以降はフィリピン大学で教えながら、若手アーティストの自立、「SHOP6」をはじめとするスペースの運営などを精神的に支えました。さまざまなアーティストやギャラリストへのインタビューのなかでも、ロベルト・チャベットの名前が何度も聞かれ、現代でも、チャベットの教え子だったコンセプチュアルアーティストは実はたくさんいます。フィリピンのコンセプチュアルアートの発展を考えるうえでは、欠かせない存在だと言えるでしょう。

Special Thanks

アリス・サリミエント | Alice Sarmiento
アンジョ・ボラルダ | Anjo Bolarda
イサ・ロレンツォ | Isa Lorenzo
エヴィータ・サレーニャス | Evita T.Sarenas
エリック・ザムーコ | Eric Zamuco
ガブリエル・バレド | Gabriel Barredo
カレン・フローレス | Karen Flores
キリ・ダレナ | Kiri Dalena
コン・カブレラ | Con Cabrera
シッド・ペレズ | Sidd Perez
セサー・ヴィルヤロン | Cesar H. Villalon
デレク・トゥマラ | Derek Tvmala
ノルベルト・ロルダン | Norberto Roldan
パトリック・フローレス | Patrick D. Flores

ポクロン・アナディン | Poklong Anading
ホセ・ガブリエル | Joseph Gabriel
ホセ・テンス・ルイス | Jose Tence Ruiz
ホセリーナ・クルーズ | Joselina Cruz
ホイ・マリャーリ | Joy Mallari
マーク・オカンポ | Marc J. Ocampo
マーク・フスティニアーニ | Mark Justiniani
マリカ・コンスタンティーノ | Marika Constantino
ヤエル・ブエンカミノ | Yael Buencamino
ヤソン・バナル | Yason Banal
リッキー・フランシスコ | Ricky Francisco
リンゴ・ブノアン | Ringo Bunoan
ロレン・レガルダ上院議員 | Senator Loren B. Legarda

Research