SEA プロジェクト プレイベント2
ヘリ・ドノによるパフォーマンス&トーク+SEAプロジェクト報告:インドネシア編 第2部 プロジェクト報告 プレゼンテーション3

2000年代以降のアーティストについて紹介する熊倉晴子森美術館アシスタント・キュレーター

パフォーマンスで使用されたワヤン・クリの人形

インドネシアのコレクティブについて

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熊倉 晴子

2015年11月にインドネシアで10日ほどのリサーチを行った際にもっとも特徴的だと思ったのは、非常に多くのアーティストたちが個人としての制作を行う傍らで、コレクティブ、集団としても活動を行っているということでした。コレクティブとは何人かのアーティストが集まり、共同でひとつの作品を作ったりプロジェクトを行ったりする集団のことです。ここではリサーチで訪れたジャカルタ、スラバヤ、ジョグジャカルタで話を聞いたコレクティブのうちいくつかの活動をご紹介します。

まず、ジャカルタのルアンルパ(Ruanrupa)というコレクティブについてです。さきほど片岡の話にもありましたが、ルアンルパは2000年に設立されたコレクティブで、16年の長い歴史を持っています。様々なアーティストが参加していて、ルアンルパのなかにさらにいくつものコレクティブが存在するという構造になっています。また、ルアンルパとは人々に対するグループの名前であると同時に、場所の名前でもあります。展覧会を行ったり、OKヴィデオ・フェスティバルというヴィデオアートのフェスティバルを主催したり、キュレーターのためのワークショップを行ったり、ラジオ放送の放送局も持っていたりと、非常に多岐に渡る活動を行っています。アートが限られた人々のものではなく、より開かれた多くの人のためのものであるようにということを軸に活動を行っており、ジャカルタおよびインドネシアのアートシーン全体の中心であるといえます。

2015年の調査では、ルアンルパのギャラリースペースで、他のコレクティブのプレゼンテーションも聞きました。これはジャカルタだけでなくスラバヤでもジョグジャカルタでも同様で、あるコレクティブの場所に集まり、いくつかの他のコレクティブの話を聞くというような形式がインドネシアの調査では特徴的でした。

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2015年11月インドネシア調査での様子。ジャカルタ、ルアンルパギャラリーにて。プレゼンターはジャカルタ・ウェステッド・アーティスト。

ジャカルタで出会ったコレクティブの中からは、ジャカルタ・ウェステッド・アーティスト(Jakarta wasted artists; JWA)をご紹介したいと思います。《Graphic Exchange》(2015)という作品で、ジャカルタのある通りの大小の商店を訪ねていって、看板を新しく作ってあげますよというお話をします。コレクティブのメンバーは画家やデザイナーなど様々なバックグラウンドを持っているので、その店主のために新しい看板をデザインし、作成します。その際にその商店がいつできたのか、どういうきっかけで商売を始めたのかなど様々なお話を聞いて、新しい看板のデザインに反映させていきます。そうして無料で看板を作ってあげる代わりに古い看板をもらうという交換を行うのです。譲り受けた古い看板と、インタビューの様子を記録した映像が作品となり、大都市のなかで失われつつある個人商店の営みやその町の風景をアーカイヴィングしてゆきます。

次にジョグジャカルタで会ったふたつのコレクティブをご紹介します。ひとつはエース・ハウス(Ace House Collective)というコレクティブで、2011年に設立されました。若者のポップカルチャーを用いることで現代美術の幅広いアプローチを目指しています。「エース・マート」(Ace Mart)というプロジェクトでは、ギャラリースペースをコンビニエンスストアのような内装にし、実際に販売を行うお店として機能させました。日用品とアートのオブジェクトを同時に売ることで「アート」と日常的な行為の間のボーダーを壊すような試みです。様々な人にアートにもっと関わってもらうこと、アートの可能性を最大化してコミュニティと関わっていくことを目指したプロジェクトです。

もうひとつがXXラボ(XXLAB)というコレクティブで、女性だけで結成されています。アートの中心地であるジョグジャカルタにおいても、女性のアーティストの数は男性に比べて少ないのが現状です。彼女たちも様々なバックグラウンドを持っていて、デザイナーやプログラマーなどが集まっています。ジェンダーやフェミニズムについてただ議論をするのではなく、女性であることについて多角的に考えるプロジェクトを行っています。オープンソースのソフトウェアを使い、日常的な、どこの家庭にもあるような素材を組み合わせて制作を行っています。例えば「ソイ・カルチャー」(Soya C(O)U(L)TURE)というプロジェクトでは、テンペというインドネシアの大豆製品や豆腐をつくる際に発生する排水が水質汚染の原因となっている問題に着目し、その排水からつくられたティッシュのような薄い素材を用いてドレスをつくっています。これはアルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)*で受賞したプロジェクトで、こうしたことから水質汚染に目を向ける社会的な活動につなげていきたいということでした。

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2015年11月インドネシア調査での様子。ジョグジャカルタ、XXLABにて。

最後にスラバヤのワフト・ラボ(WAFT Lab)というコレクティブをご紹介します。ワフトとは、「ふわりと漂う」という意味で、芸術活動ですが、とてもゆったりした空気感をイメージしていて、非常にインドネシアっぽいといえると思います。彼らは電子機器などを素材として制作しているコレクティブで、イベントも主催しています。スラバヤには秋葉原のような電子部品の有名なマーケットがあり、それが彼らの活動にも非常に影響しています。ジャティム・ビエンナーレに出品していた作品は、人間の身体とデバイスの関係性をテーマにしていました。耳のなかにあるプレスティンという遺伝子が音を適合させることで私たちは音を聞くことができているそうで、そこからヒントを得て、人が触れることで作品が発する音が変わっていくという作品でした。

もうひとつのコレクティブは、これもスペースの名前でもありますがC2O(Se Dua O)です。古書店やギャラリースペースもあり、訪れた際にも展覧会が行われていました。インドネシアの人々は多くの場合、車やバイクで移動しています。東京に暮らしていると、歩くことは非常に身近な行為です。けれども、インドネシアは非常に暑い、なかでもスラバヤは特別に暑く、歩くということが人々にとって身近な行為ではないそうです。そのため、スラバヤ市内を歩くという基本的な動作を通して自分たちの街を知るという試みを行っていました。

ここまでいくつかご紹介しましたが、この他にももちろんたくさんのコレクティブが存在しており、なかには複数に参加している作家もいます。メンバーでひとつの家を借りて、そこをスタジオにしつつ皆で生活しているコレクティブもいます。彼らにとってアートと生活は一体のものになっていて、それをアートに関わる人だけでないより多様なコミュニティと共有していこうとする姿勢が、共通していたように思いました。現在注目を集めているソーシャリーエンゲージドアート(Socially Engaged Art)が極めて自然なかたちで行われているということが、非常に興味深いと感じています。

*アルス・エレクトロニカ:メディアアートに関する世界的な祭典。オーストリアのリンツで毎年開催される。

イベント後集合写真を撮る登壇者の皆様

写真: 御厨慎一郎
写真協力: 森美術館

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ヘリ・ドノによるパフォーマンス&トーク+SEAプロジェクト報告:インドネシア編